ログイン母には逆らえないので、ちょっと待った。母は社長ですし。
数日待って、やって来た。本当に待っていた。貯まりにたまった洗濯物が私の待ち具合を物語っている。これ以上は服を買いに行こうか?ってくらい洗濯物がたまっている。
やってきた家政婦さんに会った時に驚いた。―――見るからに男性。彼はオトメンというやつなんだろうか?それはいいけど、洗濯をしていただくという事は当然私の下着も洗濯するという事で……。これは母の陰謀だろうか?少しくらいは自分でも家事をしろという。あとあと、男性に買い物を頼むことになるけど、生理用品を頼むのは気が引ける。これも母の陰謀なの?
脳裏に高笑いをする母の顔が浮かぶ。
「派遣されて参りました。
マジでオトメン現った。母の人脈スゴイ!
それにしても…颯斗。見た目がもっさいわ。本当に家事が万能なのかしら?
「えーと、『私のイメージを壊さない』ことが大事なのよ。そうねぇ、今日の夕食にパエリアを作れるかしら?」
「道具と材料があれば」
どうせいいキッチンだけど使いこなしてないわよ!
本格パエリアならパエリア鍋が必要なの?いいわよ。オトメンよ、作ってみなさいよ!お金なら存分に稼いでいるわよ!
颯斗はデパートでパエリア鍋などの道具と材料を調達し、美咲の部屋のキッチンを使った。
颯斗がデパートに行っている間に美咲は母に電話した。
「家政婦が男性なんて聞いてない!」
「言ってないもの。彼は昨今増えたオトメンというやつね。まぁ、うまく使ってやってよ」
そう言い、一方的に電話を切られた。
マジかー。
颯斗は手際よくパエリアを作り、味の方は完璧だった。
「どこかのお店で修業したの?」
「俺なんぞ、ただ趣味のようなものです」
その趣味すらもまともにできないんですけど……。
颯斗は部屋を見回し、洗濯物の山を見つけた。
「美咲さん、あの洗濯物を洗濯してしまっていいでしょうか?」
任せてしまった方が私は楽なんだけど…でも、下着が…。
「ああ、美咲さんはまさかご自分の下着が混ざっている事を気にしてらっしゃいます?家政婦にとって、洗濯物は洗濯物です!下着だからなんです?所詮は布!洗い方に注意書きがあるかもしれませんがそれは他の物と変わりはしません!」
そんなに熱弁されると。……お任せしていいかな?
「それでは、あの洗濯物の山を片付けて下さい!」
「わかりました。あ~、実家でもあんなに沢山の洗濯物を一度に洗う事ってないからなんだかワクワクしますね~」
「ところで、ここにはいつ働きに来るの?」
「住み込みって聞いてるのですが?」
流石に顔を見合わせて固まりました。
そりゃあ、部屋は余ってるけど…。マジか?
先日のプレゼン対決で副社長の私が負けてしまった。という事はすでに会社の噂になっていた。「副社長の何が不満だったの?」 そんなのはこっちが聞きたい。今までが順風満帆だっただけに衝撃が大きい。「実は副社長って七光りってやつじゃねー?」 今まで恩恵を受けておいていきなり何を言いだすのか、愚かな奴を雇っていたんだなと思った。 私はその発言をした男を解雇したが、余計に私の支持率を下げることとなった。「事実を言われたから……」 あー、これは説明した方がいいかなぁ?「違うわよ!」「「「社長!」」」「今まで副社長の恩恵を受けて仕事をしてきたっていうのに、たかだか1回ミスったくらいで手のひらを返したような発言。愚かしいでしょ?そんな愚かな人間を雇うような趣味はないのよ。上層部は1度のミスも許されないのかしら?そんなことはないでしょう?」「そ、そうよね。確かに一度くらいミスるわよ」「副社長になってからずーっとぐーたらしてるんならまだしも、社のために粉骨砕身働いてるんもんな」「そうよ!」 社長の言葉で私の立場が元に戻った。と言っても、今後も精進していかなきゃならないのは変わらないけど。 私がこの会社を継ぐんだからしっかりしないと!颯斗には家政婦頑張ってもらおう。ん?家政婦。颯斗だってそのうち結婚して家庭を持つようになるわよね。うん、その大黒柱として恥ずかしくないほどの給与を渡さないと!「副社長!颯斗君はその後どう?うふふっ」「社長、その話は副社長室なんかでじっくりとしましょう?こんな公衆の場でなくて」 私と母は、副社長室に移動した。私の秘書にも秘書室の方に行くように指示を出し、二人きりになるようにした。「どう?って颯斗はとてもよくしてくれますよ?作る料理は大体美味しいですし?」「あ~ん、そうじゃなくて。颯斗君本人よ!」「もっさいですよね~。さすがは母です。人脈がスゴイですね~」「もっさい?颯斗君が?いつもビシッとスーツ姿で髪型も決まってて、凛としてるのに違うの?」 それは誰?「うちにいる颯斗と別人じゃないですか?」「その‘颯斗’の名字は?」「あ、そういえば聞いてないなぁ。料理が美味しくて♡」「私が派遣したのは、‘舘塚颯斗’よ?」 タチヅカ ハヤト? 嘘でしょ?その颯斗に洗濯させてる。下着まで。「冗談。もっさい男よ?オトメン
「ちょっと聞いてくれる?あなたと同じ名前の舘塚颯斗ってのが、この私よりも良いプレゼンって評価されたのよ?信じられない!絶対部下を手足のようにこき使って今回のプレゼンだって作り上げたに違いないわ!私は一人で作り上げてるわよ?それに評価が付くなんて気分が最悪だったんだけど、颯斗が作ったこのカレーを食べて、なんだか安心したわ」「俺なんかが役に立てて光栄です」「謙虚ねぇ。颯斗はいつも役に立ってるわよ~」 ふぅ、俺がその舘塚颯斗だってわかったら、彼女は絶望するだろうか?しそうだな。洗濯までしたし。オトメンてのは確かなんだよなぁ。 神薙社長からの依頼でココに来てみれば、大惨事で聞いてた通りと言えばその通りだけど…まさかここまでとは…と正直なところ思ってしまった。 いつもの会社に行く仕様の格好じゃなくて良かった。彼女は‘舘塚颯斗’をライバル視してるみたいだしな。ワザとにもっさい格好してたわけじゃなくて、普段はそんな格好でいたい!普段からあんな会社にいるみたいな格好でいるのは疲れる。 俺に関していえば噂はこうだ。「颯斗さんの家には絶対家政婦さんがいてさぁ、「坊ちゃま今日は何をお召し上がりですか?」とか朝に夕飯の質問してそう?」「あー、わかる~!」「仕事の前後でジムに行ってそうだよな。イイ体してるもんな」「あんた、颯斗さんのどこ見てんのよ?」「腹筋。泳いでます!って感じがする」 という感じ。真面目に家事をこなすとこうなる。かなりの重労働だからな。 プレゼンの事言われたけど、アレは…寝静まった後にPCでちょこちょこと作ったものだ。思わぬ高評価を得たが。 プライベートでまであんな会社にいる時みたいにかっちりとしているのは疲れる。その点、美咲さんは私生活でもかっちりとしていてすごいと思う。俺がいるからだろうか?断固としてすっぴんは見せません!って感じだし、服装もキチンとしている。スウェットでダラダラなどしていない。スウェットでもいいと思うのだが?「美咲さんは何故に仕事でもないのに服装などに拘りがあるのですか?」「うーん、着慣れてるからこっちの方が楽という感じかなぁ?ほらっ、和服なんか肩が凝りそうだけど、着慣れてる人は和服の方が楽って言うし。それと一緒じゃないかなぁ?」 なるほど。 世の中にはいろいろとあるのだなぁ。スウェットが必ずしも楽とは限らないとい
「最近、副社長の肌艶が以前にも増して良くなったと社内で噂ですよ?誰か好きな人がいるんじゃないかとか、最初から婚約者がいたんじゃないかとか」 私はその話を聞いて飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。紅茶は今朝、颯斗が淹れてくれたものを魔法瓶で持って来ている。もったいないことをした。そこらの紅茶よりも美味しいのに。「どこからそんな噂が出てきたのよ?最近仕事の調子が良くてストレスもないからかなぁ?」 恐らく、颯斗によって食生活が改善したからだろう。 化粧だってわざわざファンデを塗らなくていいんじゃない?って思うくらいだし。 ……ストレスはその颯斗と一緒に暮らしている事かしら?あんなにもっさいのに家事が完璧なオトメンなんだもの。「今日は企業アピールのプレゼンですね。どっちかの企業を選んでいただかないといけないなんて……」「大丈夫よ!この私がプレゼンの資料を作ったんだから‼」 そうよ、この後の舘塚産業とのプレゼン対決だって私の圧勝よ!「―――2社のプレゼンを聞いたんだが、今回は舘塚産業にこの仕事を任せたいと思う」「有難いと思います」「社への愛を感じたよ。神薙さんの方もいいプレゼンだったんだけどねぇ。もう一つ足りない感じがしたんだよねぇ」 なんなの?このオヤジ!私のプレゼンよりも舘塚産業のプレゼンの方が優れていると?そうなの?大体名前から気に入らないのよ!‘舘塚颯斗(たちづかはやと)’。うちの颯斗に名字をくっつけたような。会長令息?そんなの知らん!女子社員が秋波を送ってたけど、うーん、確かにいい服着て、髪型も整ってるし『会長令息』って感じ!きっと特別室みたいなとこで部下を手足のように使ってこのプレゼンも作ったんでしょうね! こういう時はさっさと帰宅して、颯斗の美味しい料理にありつくのが一番よね~。「副社長、決済が必要な書類がありますので帰宅までこれらを片付けて下さい」 あぁ、こういう時に融通が利かないのよね。仕方ないけど。まぁ、私の事務処理能力をもってすればこの程度の書類すぐに片付けるわよ。 秘書曰く、私は鬼のような形相で書類を片付けていたらしい。 書類も片付け、早々に自宅に帰る。 待ってて!私の美味なる料理‼すぐに食べてあげるからね。 本日は颯斗も本職に手間取ったらしく(本職って何だろう?)、料理は颯斗的に手抜きだった。私的に
母には逆らえないので、ちょっと待った。母は社長ですし。 数日待って、やって来た。本当に待っていた。貯まりにたまった洗濯物が私の待ち具合を物語っている。これ以上は服を買いに行こうか?ってくらい洗濯物がたまっている。 やってきた家政婦さんに会った時に驚いた。―――見るからに男性。彼はオトメンというやつなんだろうか?それはいいけど、洗濯をしていただくという事は当然私の下着も洗濯するという事で……。これは母の陰謀だろうか?少しくらいは自分でも家事をしろという。あとあと、男性に買い物を頼むことになるけど、生理用品を頼むのは気が引ける。これも母の陰謀なの? 脳裏に高笑いをする母の顔が浮かぶ。「派遣されて参りました。颯斗と申します。家事全般申しつけてくださったら、何でも承ります」 マジでオトメン現った。母の人脈スゴイ! それにしても…颯斗。見た目がもっさいわ。本当に家事が万能なのかしら?「えーと、『私のイメージを壊さない』ことが大事なのよ。そうねぇ、今日の夕食にパエリアを作れるかしら?」「道具と材料があれば」 どうせいいキッチンだけど使いこなしてないわよ! 本格パエリアならパエリア鍋が必要なの?いいわよ。オトメンよ、作ってみなさいよ!お金なら存分に稼いでいるわよ! 颯斗はデパートでパエリア鍋などの道具と材料を調達し、美咲の部屋のキッチンを使った。 颯斗がデパートに行っている間に美咲は母に電話した。「家政婦が男性なんて聞いてない!」「言ってないもの。彼は昨今増えたオトメンというやつね。まぁ、うまく使ってやってよ」 そう言い、一方的に電話を切られた。 マジかー。 颯斗は手際よくパエリアを作り、味の方は完璧だった。「どこかのお店で修業したの?」「俺なんぞ、ただ趣味のようなものです」 その趣味すらもまともにできないんですけど……。 颯斗は部屋を見回し、洗濯物の山を見つけた。「美咲さん、あの洗濯物を洗濯してしまっていいでしょうか?」 任せてしまった方が私は楽なんだけど…でも、下着が…。「ああ、美咲さんはまさかご自分の下着が混ざっている事を気にしてらっしゃいます?家政婦にとって、洗濯物は洗濯物です!下着だからなんです?所詮は布!洗い方に注意書きがあるかもしれませんがそれは他の物と変わりはしません!」 そんなに熱弁されると。……
私に家事の才能はない。 卵焼き…というか卵料理全般。卵を割る。力加減が上手くいかない。全く割れない、又は何故か指が卵の殻を貫通。これは指が痛い。そして力を入れすぎると、卵粉砕。殻ごと粉々になる。 テレビで見る。片手で卵を割るシェフの方。素晴らしいと心から思います。 洗濯…は洗濯機がしてくれるからとお思いでしょうが、私は洗剤の量なんかがよくわからずに適当に入れていたら、汚れが残っていたりする…。某企業が作ってくれた、一粒でいいというあれにどんなに助けられていることか! お金がかかる、という話もあるけれど。それならば自分で稼げばいい話で問題なく有難く使わせて頂いています。 お掃除ロボットも然り。以前なら掃除機のヘッドを至るところにぶつけ、掃除機の寿命を短くしてしまっていたけれども、お掃除ロボット様は私が留守の間にササーッとお掃除をしてくれている。なんて素敵なんだろう。スマホでその様子が見れたりして、あの子にもお名前を付けたほうがいいかなぁ?なんて思っています。 そんな私の名前は神薙(かんなぎ)美咲(みさき)。名は体を表すってよく言われます。「…でもねぇ。外食や買い食いばかりじゃ栄養バランスに偏りがあるのは確かよね。今はいいかもしれない」 食生活は滅茶苦茶だけど、肌の調子はいつも良い。「やっぱ家政婦さんを雇うのが現実的かなぁ?幸い私は高給取りだし」 私は毎日ヒールを鳴らして会社に出社。 私の役職は、ズバリ副社長。社長は私の母。シングルマザーだった母親が一代で築き上げた、神薙インターナショナルコーポレーションの副社長が私の役職。 七光りとかいうバーコード親父とかいたりしても私の語学力やプレゼンの能力などを実感すると閉口してしまう。「副社長は今日も麗しいよな。まさに名は体を表しているよな」「私は副社長に憧れてこの会社に入社したのよ!」「同じ会社にいたからって副社長みたいになるわけじゃないぞ」「そうなんだけど…。わかってるわよ‼」「副社長の夕飯なんかさぁ、きっと独り暮らしだけどパエリアとか?」「あぁ、そんなイメージ。わかる~‼」 さて、どんな人が私の家政婦として相応しいかだけど…。 重要なのは、『私のイメージを壊さない』って事!なんせ私は完璧美女なんだから! 大々的な募集もかけられないなぁ。口コミ?にしたって私が家事出来ない